夕食後、寝間着に着替えるはずのお爺さんが、なぜか上着を羽織った。
「え、これから外に出るの?」と思わず声をかける。
まだ食事が終わっていない方もいて、介助が必要だったため、付き添えないこと、そしてその場を離れられないことを伝えると、お爺さんは穏やかに言った。
「俺にそんなに頑張って仕事しなくていいよ。そちらの方にご飯食べさせていて。」
そう言うと、そのままホームの外へと歩いていってしまった。目的はわかっている。
四つ葉のクローバーを探しに行くのが、その方の日課だった。以前には、六つ葉を見つけたこともあるという。
夕食の片付けや介助の段取りが頭をよぎる一方で、「今、外に出たい」という気持ちはすでに動き出していた。お爺さんの「四つ葉を探したい」という気持ちを止めるのは、このときは無理だと思った。それでも私は、1人で外に出ていかれることへの心配が勝ち、残ってくれていた他のスタッフに介助を託し、一緒に四つ葉を探すことにした。
たくさんのクローバーの葉を、慣れた手つきでかき分けていく。
「難しいからこそ探したいんだ。自分の仕事だと思っている。」
そう語る姿には、ただの遊びや散歩というよりも、どこか自分の役割を果たしているような強さがあった。「四葉のクローバーを見つけたら何か叶えたい願いがあるのですか?」と尋ねると、「何もない」と静かに返ってきた。
「ほら、あった」そう言って、お爺さんが小さな葉を私に渡してくれた。
葉が4枚ある!ほんとに見つけてくれた。
そして満足したように、そそくさとホームへ戻っていった。私も、後ろを追いかけるようにホームに戻り、待機していた職員を含め、利用者さんたちに見つけてくれた四つ葉を見せて回った。「押し花にして栞にしよう。〇〇さんが見つけて私にくれたんだ」と、自慢するように話していたら、お爺さんの表情が、さっきまでの穏やかな落ち着きとは違い、とびきりの笑顔と誇らしさに満ちていた。
その後、お爺さんは寝間着に着替え、その夜はぐっすりと眠った。
四つ葉のクローバーを見つけたのは、時間にすると10分ほどのことだった。けれど、そのわずかな時間ですら、介助があるからと、今は付き添えない。と思ってしまった自分に、あとから反省した。陽気のいい時間は、夕食時のほんの短いひとときだったかもしれない…。その時間に一緒にクローバーを探したことは、不思議とこちらの心も軽くしてくれた。
自宅での自由な暮らしではないからこそ、こんな一日があってもいいのかもしれない。そういう時間があるからこそ、満足を感じられるのかもしれない。